月

― 非想天則雑考・蛙石神について ―

前回(J2A)に引き続いて諏訪子の技について雑考したいと思う。
今回は諏訪子のスキルカード「蛙石神」について。

劇中のモーションでは、巨大な蛙の形をした石の上に乗って突進する。
蛙の形をした石という点に着目すると、まず最初に思い浮かぶのは「蛙石」であろう。
蛙石とは、土着神「七つの石と七つの木」で挙げられる「七つの石」こと諏訪七石の一つであり、 『信州奇勝録』ではその所在を「蟆石 同(社中:筆者注)」と記されている。
(なお、石の名前の表記は資料によって上記「蟆石」の他、「蛙石」や「蟇石」だったりするが同じものであると思われる。)
ただし、現在では蛙石の所在について諸説あり、主に以下の三つがあるようである。

(1)諏訪大社上社本宮の神居の中にある
(2)上同の蓮池の中にある
(3)諏訪市湖南大熊にある
この三つを順に見て行こう。

まず、(1)の「神居」は、本宮の拝殿の奥に位置しており、 禁足地となっているため蛙石があるかどうかすら確認することはできない。
次に(2)の「蓮池」は本宮の北鳥居を入って右手、社務所へ行く道の右手にある。


(蓮池の蛙石と思しき石・10/04/04 筆者撮影)
蓮池の端の方にあるこの石が蛙石であろうか。
言われてみれば蛙の形に見えなくもない…か?

最後に、現在最も容易に蛙石だと確認できるであろう(3)について述べる。

 
(大熊の蛙石・08/09/18筆者撮影)
こちらが、本宮から県道16号線を西に少し行った先の住宅地の中に存在する蛙石といわれる石である。
形も見た感じ蛙らしいが、それよりも蛙石としての案内板もあり、 そこには『上社物忌令』に高島城建築の際に、庭に飾るために運んできたということが記されている。
(ただし、どこから持ってきたかは不明。)

諏訪子は蛙の神様であり、先述の通り『東方風神録 ~ Mountain of Faith.』にて 土着神「七つの石と七つの木」を行使する。
このことから、諏訪七石の中でも特に蛙石がピックアップされることになったのだと考えられる。


さて、ここで少し脱線して、諏訪七石の蛙石以外にも目を向けて見たいと思う。
着目するのは蛙と石のままであるが、 例えば『諏方上社物忌令』(神長官本)には「七石之事」には
 「御座石ト申ハ正面ノ内ニ在リ、件之蝦蟆神之住所之穴
  龍宮城エ通、蝦蟆神ヲ退治、穴破石以塞、其上ニ坐玉シ間、
  名テ石之御座石ト申也」
とあり、蝦蟆神の住居である穴を石で塞ぎ、それを御座石という、と記されている。
これも蛙と石が関連付けられている一つの例となるかもしれない。

また、諏訪に限らず各地に"蛙石"という名を伝える石は存在する。
一例としては、小田原の北條稲荷神社には蛙石(かわずいし)があり、
神社を建てた際に城内から移したものと伝えられる他、落城の際には鳴き騒いだという伝説がある。
自然石が蛙の形に似ていることからそう呼ばれるものの他、 日暮里の南泉寺というお寺には石碑に三匹の蛙を刻んだ"蛙塚"なるものが存在するという。
こうした蛙に関係する石の類の中でも特筆すべきは、 熊野速玉大社の摂社神倉神社に存在する巨岩「ゴトビキ岩」であろうか。
ゴトビキとはヒキガエルのことで、『日本書紀』では神武天皇が登った「天磐盾」に比定される。
ところで、熊野といえば神武天皇が山中で迷い、八咫烏が先導したことで知られる。
八咫烏といえば、霊烏路 空に八咫烏の力を与えたのは神奈子(と諏訪子)であったが、 何か関連はあるのだろうか?


最後に蛇足を追加。
「蛙石神」を"蛙石"神ではなく、蛙"石神"と捉えるならば、 蛙の石神ということで、ミシャグジ様にも関連を結び付けらるかもしれない。
(石神はシャクジンと読んでミシャグジ様の別名と捉えられたりする。)

― 出典 ―

  • 『東方非想天則 超弩級ギニョルの謎を追え』
        上海アリス幻樂団/黄昏フロンティア 2009

― 参考文献 ―

  • 『古事類苑 神祇部四』 吉川 圭三発行者 株式会社吉川弘文館 S.52
  • 『年内神事次第旧記』 武井 正弘編著 茅野市教育委員会発行 H.12
  • 『にほん民俗伝説全集 第四巻 中部篇』 藤澤 衞彦著 株式会社河出書房 S.30
  • 『熊野の太陽信仰と三本足の烏』 萩原 法子著 戒光祥出版株式会社 1999
  • 『石仏十二支・神獣・神使』 森山 隆平著 株式会社星雲社 S.58
  • 『お守り動物園』 撮影・田淵 暁
      加藤 秀俊/早谷川 明/佐々木 亨/鈴木 克美/阿部 株理/伊藤 比呂美/伊藤 清司著
         INAX出版 1996