月

雑考メモ/天石戸別神について

 天孫降臨の神話において、天照大御神より
思金神、天手力男神と共に八咫鏡の祭祀を任命された神で、
瓊瓊杵尊と共に随伴した神々のうちの一柱。
 『古事記』には、
 「天石戸別神、亦名櫛石窓神謂、亦名豊石窓神、
  此神者、御門之神也。」
とあり、別名が櫛石窓神、豊石窓神であると記されている。
 加えて、"御門之神也"と記されているように、
古の宮城の内裏、その四方の門に祀られていたという。
 『延喜式』(神明帳)には宮中神三十八座のうちに「御門巫祭神八座」とあり、
先従の巫女によって祭祀が行われていたことが窺える。
 なお八座とあるが、"御門之神"は先の櫛石窓神・豊石窓神の二柱で、
「四面門各一座」、即ち二柱が四方各々に祀られ、計八座となっていたようである。

 この他、『古語拾遺』、『先代旧事本紀』にも同神(或いは別名)が見える。
 例として『古語拾遺』には
 「豊磐間戸命、櫛磐間戸命二神殿門守衛〔是、並太玉命子也〕。」
とある。
 一方『先代旧事本紀』には神祇本紀に
 「復豊磐間戸命令、櫛磐間戸命二神殿門守衛並天太玉命之子也」
と、先の『古語拾遺』の記述とほぼ同じものが見える。
 また、同書の天神本紀には『古事記』と同様の記述が、
天孫本紀には
 「復櫛磐門戸豊磐門戸神並命御門巫(所?)奉齋矣」
とある(※ ?部に関しては字が不明)。

 さて、その神名についてであるが、『諸神・神名祭神辞典』には
天石戸別神は天岩戸を開いた為にその神名があると述べている。
 しかし一方で、『日本神話事典』では天岩戸は、
瓊瓊杵尊が天磐戸を引き開け、八重雲を排分けて、降し奉る(『日本書紀』一書)
とあるように、天上への出入り口にある門を指した言葉で、
いわゆる天岩戸神話で天照大御神が籠もった岩戸ではないと述べている。
 また、他の数書でも天岩戸の語について天上の出入り口となる門のこと
だと述べており、どちらかといえば天上への出入り口となる門に関わりのある神、
と解した方が穏当のようである。

 次に系譜としては、先述の如くまず櫛石窓神、豊石窓神が別名であるとされ、
天布刀玉命の御子神である、或いは他に天手力男神の別名である
とする説もあるようであり、しっかりとは定まっていない。
 神格については、門にかかり、門を守る神であるとされる。
 加えて、門は都や宮殿、家屋などの出入り口に当たること、
その外部と内部を隔てると同時に互いを結ぶ接点となるという性質から
その境界にあって、外部から侵入しようとする悪霊や災厄を防ぐ
役割をも持つともされる。

 ところで、その別名とされる櫛石窓神、豊石窓神については
神名は"奇し(霊妙な)"なる美称("豊"も同様に美称)で、
"石"は堅固な意、"窓"は"真門"で"真"は美称とされ、
霊妙で堅固な門の神、という意であると解される。
 なお、『延喜祝詞式』御門祭の条にはこの二柱の名が見え、
両神がこの御門祭での祭神であることが窺える。


 以上が、ほんの軽くではあるが天石戸別神について。
 これらの事跡を踏まえると、宮城の門に祀られた門の守護神的な性格が
この神の基本的な神格であるということができそうである。

― 参考文献 ―

  • 『古事記 日本思想大系1』 青木 和夫/石母田(いしもだ) 正/小林 芳規/佐伯 有清
           株式会社岩波書店 1982
  • 『古語拾遺 (新撰日本古典文庫 森 秀人編集責任)』
         安田 尚道/秋本 吉徳校注 現代思想社 1976
  • 『続日本古典全集 先代旧事本紀 附旧事本紀直日』
         石井 恭二編集発行人 株式会社現代思想社 S.55
  • 『日本神話事典』 大林 太良/吉田 敦彦監修 大和書房 1997
  • 『日本神名辞典』 神社新報社 H.7第二版
  • 『諸神・神名祭神辞典』 矢部 善三/千葉 琢磨編著 株式会社展望社 1991
  • 『「日本の神様」がよくわかる本』 戸部 民史著 PHP研究所 2004
  • 『面白いほどよくわかる 日本の神様』 山折 哲雄監修 田中 治郎著
              株式会社日本文芸社 H.19